浅い呼吸がもたらす体の不調
鼻呼吸で深い呼吸が大切
【ガス交換】
呼吸の重要な目的は、60兆個あるといわれる全身の細胞へ酸素を届けることです。
取り込んだ酸素と吐き出す二酸化炭素のガス交換を肺の末端にある肺胞というところで行われているのですが、その取り込まれた酸素は、血管内のヘモグロビンと連結(酸素ヘモグロビン)して、栄養素とともに全身の各細胞へ届けられていきます
この細胞レベルでの呼吸がきちんとされないと、大量の酸素を必要とする脳をはじめ、臓器や器官に悪影響を及ぼしてしまうのです。 いったい、大量の酸素を運べなくなる理由は何なんでしょう?
それは、現代人に多く見られる浅い呼吸が関係しているといわれています。
浅い呼吸により、十分な量の酸素を取り込めず、酸素を取り込もうとたくさん呼吸をしてしまいます。
このことで、多くの二酸化炭素を身体からどんどん排出してしまいます。
二酸化炭素が多い場所ほど、酸素が必要だと判断し、酸素ヘモグロビンは酸素を離す仕組みになっていますが、二酸化炭素が少なくなることで、ヘモグロビンが酸素を切り離しにくくなり、細胞に配られるはずの酸素が減少してしまうのです。
しかも、切り離されなかった酸素の一部は“活性酸素”となって、細胞を攻撃してしまうのです。
この、活性酸素が身体の不調の原因と言われています。
【活性酸素】
活性酸素は、「他の物質を酸化させる力が強い酸素」ではありますが、体になくてはならないものです。
しかし、過剰に生じた場合、活性酸素は毒性が強い為、「DNA」「脂質」「酵素」「たんぱく質」などの体の重要な生体成分を酸化させ、体に害をもたらすと言われています。
体の細胞が酸化すると、老化現象が始まってしまい、また、糖尿病や高血圧、動脈硬化など様々な病気を引き起こしてしまいます。
皮膚も例外ではありません。
皮膚を酸化させることで、皮膚のコラーゲンなどを破壊し、女性には大敵なシミやシワの原因にもなります。
また、アトピーを発症させる原因ともいわれています。
どうしたら、これらを改善する方向へもっていけるのでしょうか?
それは…。深い呼吸です!
きちんと酸素を切り離してもらう働きを深い呼吸で促すのです。
勿論、全部が全部深い呼吸でよくなるということではありませんが、不調の原因が呼吸によって改善にむかうのであれば試してみる価値はあると思っています。
【自律神経】
呼吸が与える心身への影響として、「ストレス・血圧・睡眠・体の凝りや痛み」などがあげれます。
一見、呼吸とは関係なさそうに見えるこれらも、自律神経を介して深くかかわっているのです。
自律神経は、お腹の横隔膜のまわりに張りめぐらされています。
そのため、呼吸により横隔膜を動かすことで、自律神経に良い影響を与えると言われています。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、自律神経には、交感神経と副交感神経とがあります。
アクセルとブレーキといった感じで互いのバランスを取りながら体を制御しているのです。
―ストレス-
過剰なストレスを受けると交感神経が優位になり、心身は緊張して筋肉がこわばります。
横隔膜などの呼吸筋(前回のブログで紹介させていただいております)も例外ではありません。
呼吸筋の動きが悪くなると呼吸は浅くなり、呼吸の回数が増えてしまい、上記で述べた活性酸素が悪さを始めてしまうのです。
そこで、改善策として、深い腹式呼吸が良いと言われています。
横隔膜を大きく動かすため副交感神経のスイッチが入り、緊張状態が緩和されるのです。
深い呼吸による効果は、脳波にも現れます。
興奮状態にあると脳波はβ波が出やすいのに対し、深い腹式呼吸を繰り返すことで、リラックスしている時に出るα波の割合が高まるのです。
リラックスすることで、深い眠りを手に入れることができ、慢性疲労といった症状が緩和できるようになります。
ただ、自律神経の総合力は10代でピークを迎え、その後は下降し、男性は30代、女性は40代頃から副交感神経の働きが悪くなるといわれています。
女性は、更年期とも重なり、自律神経のバランスが崩れやすくなるため、倦怠感や肩こり、腰痛、頭痛、不眠、手足の冷えなどの不定愁訴が起こりやすいのではないでしょうか。
副交感神経が優位になりすぎても、やる気や集中力が低下するといった状態になるため、やはり、バランスが大切という事だと思います。
―免疫細胞―
例えば、細菌やウイルスといった外敵が身体に侵入してきたときに活躍する免疫細胞「白血球(顆粒球・リンパ球)」の働きを考えてみます。
大きめな菌に対応する顆粒球は交感神経優位で増加し、また、ウイルスやがん細胞のような小さな外敵に対応するリンパ球は副交感神経優位で増加すると言われています。
これら免疫細胞が力を発揮するには交感神経・副交感神経のバランスが重要で、夜間に交感神経が優位のままだと、リンパ球が活性化しにくく、病気になりやすくなります。
夜間に副交感神経が優位になるようにしていかなくてはなりません。
―ハッピーホルモン-
それには、ハッピーホルモンというものがあります。
脳内ホルモンと言われる神経伝達物質です。
精神安定や幸福感をもたらすため、「ハッピーホルモン」といわれるセロトニンの存在です。
セロトニンは、交感神経の過剰な高まりを抑制し、自律神経のバランスを整える働きをすると言われています。
また、睡眠ホルモンといわれるメラトニンの原料にもなるため、日中のセロトニン分泌量が多いと睡眠の質が上がると言われてます。
このセロトニンが不足すると、緊張や不安が高まるため、セロトニンの分泌量が重要となります。
セロトニンを増やすためには、筋肉の収縮と弛緩を繰り返すウォーキングのようなリズム運動が良いと言われています。
でも、もっと手軽なものとして、先ほどからお伝えしている深い呼吸(腹式呼吸)で横隔膜をしっかり動かすことで同様の効果があるといわれています。
-毛細血管-
こういった免疫細胞やホルモンなどを細胞へ届けるのは、全身の血管の約99%をしめると言われる毛細血管です。
細胞の0.03ミリという至近距離まで張りめぐらされているのです。
この毛細血管の機能低下が細胞に及ぼす影響も想像できると思います。
残念ながら、毛細血管の数にもピークがあり、20代を過ぎると減少し、60代は20代と比べると、4割減ると言われます。
悲しいことに加齢によって質の劣化も起こり、血流が滞った状態に陥り、「ゴースト血管」と言われる血流がない状態になり、そのまま消滅してしまうこともあります。
でも、加齢による毛細血管の減少は食い止められないのですが、ゴースト血管は血流が改善すると蘇ると言われています!
【指圧】
そこで、血流と言えば、指圧です!(笑)
「ここにきて、呼吸じゃなく、指圧かい!」と、突っ込まれそうですが、実際、指圧やマッサージは血流を改善するにはとても効果が高いと言われています。
とくに四肢末端まで丁寧に指圧を行いますので、実際に指圧やマッサージを受けたことがある方は実感されているのではないでしょうか。
また、呼吸筋にアプローチして、呼吸筋が働きやすい環境を作ることにも指圧は最適です。
でも、今まで述べてきた、深い呼吸は勿論とても大切です。
それも、鼻呼吸でおこなう深い呼吸が大切です。
口呼吸は、細菌やウイルスが入りやすく、口が乾燥しやすく虫歯や歯周病、口臭が発生しやすいといったデメリットが多いから鼻呼吸が良いと言われています。
呼吸を意識することで、不定愁訴が改善されるかもしれません。
【呼吸法】
おすすめの呼吸法は、以下のとおりです。
是非、呼吸法をためしてみてください。
また、指圧は体の不調があるときだけに受けると思われている方が多いかもしれません。
しかし、上記に述べてきたことを考えると、予防として血流を良くしておくことは、健康長寿への投資になるのではないでしょうか。
みなさん、健康長寿を目指していきましょう!
鼻呼吸でおこなう呼吸法
ハーバード大学・ソルボンヌ大学医学部客員教授 根来秀行先生考案
<ベース呼吸法>
…副交感神経にスイッチをいれます。脳と身体の疲労軽減に繋がります。
①まず椅子に座って姿勢を楽にする。軽く息を吐く
②お腹を膨らませながら、4秒間ゆっくりと息を吸う
③お腹をへこませながら、8秒間ゆっくりと息を吐く
④上記②③を気分が落ち着くまで繰り返す。
ポイント! 吐く時間が大切
<4・4・8呼吸法>
…ストレスや不安を感じたら即効性のある呼吸法で副交感神経優位に。
①楽な姿勢をとり、臍の上に手を置く。腹式呼吸で2~3回呼吸し、息を吐ききる。
②4秒かけて息を吸う
③4秒かけて息を止める
④8秒かけて息を吐く(お腹を絞るようなイメージで)
⑤上記①~④を4回(1セット)繰り返す(2~3セット繰り返す)
<10・20呼吸法>
…頑張った1日の心と身体の疲れを癒し、リラックスする。
交感神経を鎮静化・副交感神経優位・入眠がスムーズ。
①姿勢を正して座り、ゆっくりと下腹部を絞るように息を吐ききる
②下腹部と肛門の力を抜き、10秒間ゆっくりと息を吸う
③力を抜きながら、20秒間ゆっくりと息を吐く。このとき、息を吐ききる
④20分ほど時間をかけ、上記②③を20~30回繰り返す(自分のペースでOK)
ポイント! 部屋をなるべく暗くし、呼吸のみに意識を集中する。
参考文献 Dr.根来の病気にならない「呼吸法」(根来秀行著/大洋図書)